
「アメリカにおける日本の寸法」
2010年5月14日
今年は、咸臨丸来航150周年にあたります。 同じワシントンでも二つの文章の印象はずいぶん違いますね。ものごとはすべて相対的で、どこから誰が見るかで変わってくるということです。 アメリカに初めて来たとき、米国の新聞を読むと在京の米国人特派員がたまたま目にした我々も知らない日本の一地方の風習が、いかにも伝統的な重要ものとして紹介されていることなどに驚かれた記憶をお持ちの方は多いと思います。日本で思っていたのと異なり、日米関係だけが世界の中心ではないと分かって天動説から地動説に目からウロコが落ちたという人もいるでしょう。 ほんとうのところアメリカにおける日本の地歩、アメリカにとっての日本の意味は、いまどのあたりなのでしょうか。
外交、安全保障
米国にとって日本は外交的、安全保障上どのような意味があるのでしょうか。日本と米国をつなぐ基本は、新味はないかもしれませんが価値観を共有していることです。民主主義、言論の自由、人権の尊重などの価値観を共有する安心感があると思います。これらは、ふだんは当たり前のこととして見過ごされがちですが、グーグル問題、チベット問題などが起きたり,比較的安定していると思った国で暴動が起きたりするとアメリカ人に再認識されると思います。ひとことで言えば、日本は文化、歴史などの背景は大変違う国だが信頼できるパートナーと認識されているといえるでしょう。 具体的外交政策を見てみましょう。オバマ大統領はいわば全方位外交を展開しています。したがって日米は核不拡散、経済、気候変動、中東そのほか幅広いグローバルな課題で協力しています。その中でもオバマ政権にとり目下の重要な外交課題は、アフガニスタンからの円滑な撤退とイランの核兵器開発防止でしょう。 イランの核は大きな問題です。イランはもちろん原子力の平和利用の権利はあるのですが、問題は過去18年以上に亘り秘密裏の核活動を行い、それが明らかになってからも、国際社会の求めに応じず、ウランを濃縮し続けていることです。これによりイランによる核爆弾の開発の可能性がでてきてしまうわけです。核不拡散という観点からも中東の安定という観点からもイランの核武装を認めることはできません。米国が放置すればイスラエルが堪忍袋の緒を切るだろうという声もあります。日本としても核不拡散、核軍縮は重要な目標です。ですから日本はイランとは正常な外交関係を有してはいますが、核問題については、イラン側に早急な決着を求めています。この点は私も同席したオタワでの日米外相会談で岡田大臣からクリントン国務長官に明確に伝えました。また、同会談では、双方で、国際社会が結束して対応することの重要性につき一致を見ました。このままでいけばいずれ、国連安保理で協議が行われる可能性が高いでしょう。 因みに今、国連安保理では常任理事国の5大国の間でまず決議案などを詰め、それから非常任理事国と協議する慣わしになっています。国際機関においては、ジョージ・オーウエルのアニマル・ファーム流に言えば皆平等ですが、ある国は残りの国よりさらに平等だと言えるのではないかという声もあります。国連でも世界貿易機関(WTO)でも多くの国がメンバーになっていますが、実は主要な数カ国の意向が物事の行方を大きく左右するのが現実です。 アジア太平洋における日本と米国の関係を見てみましょう。今年2月発表された国防省の四年毎のレビューQDRは次のように書いています。 中国の軍事力は伸長しています。過去20年間日本の防衛費の伸びは年平均 0.9%ですが中国の軍事予算の伸びは15.7%でした。年平均日本の10倍以上の伸びです。その結果、軍事予算は今や発表数字だけ見てもわが国の1.5倍です。発表数字だけ見てもというのはご承知のとおり中国の軍事費は建造中の空母や長距離ミサイルを含まないもので透明性が十分でないと言われます。わが国としては、中国の軍事力の増強に注視していくとともに、中国に対し透明性を求めています。中国艦艇の海洋での動きも活発化しています。
経済、技術
日本経済は、早晩GDP世界第二位から第三位になります。ではアメリカにとって日本は経済的にどんな意味があるのでしょうか。まず米国政府の統計によれば、日本は米国財務省証券を2月現在約7、700億ドル保有しています。これは約8、800億ドルの中国についで世界第二位です。中国と並んでアメリカ経済へ資金を供給しているといえましょう。この二カ国で海外が保有する財務省証券全体の43%を保有しているわけです。なお、財務状況について言えば、日本は政府債務がGDP比約190%で先進国中最悪の水準にあります。しかし、アメリカとの違いは、国債の約9割が国内で保有されていることであり、我が国次世代への大きなツケにはなっていますが、海外からの借り入れへの依存度は低いことです。米国の場合、財務省証券の約半分が海外の保有です。 なお人民元が実質的にドルペッグし低く抑えられてきていることも中国の対米輸出増の背景にあると米議会では不満があります。ちなみに,日本円については、リーマン・ショック前と比較して対ドルで約15%上昇しています(2008年8月から2010年4月の間の変化)。 日米間のモノの貿易の8割以上は、鉱工業製品で占められています。しかし日米間では農産物貿易も大事です。日本が輸入している農産物の三割は米国からで、米国は輸入先のトップの座を占めます。産品によっては米国のシエアはもっと大きく、大豆は72%、小麦は61%、豚肉は41%で、トウモロコシにいたっては輸入の99%はアメリカからです。アメリカから見るとNAFTA(北米自由貿易地域)のメンバーであるカナダ、メキシコを除けば日本が最大のお得意様で、トウモロコシ、小麦、豚肉などいずれもトップの輸出先です。農業問題というと牛肉輸入とBSEなどばかりに焦点があたり、これ自体は重要な問題でありますが、全体から見れば大事なパートナーだということを認識しておくべきです。 日本の強みはご承知の通り、依然、技術の高さにあります。1982年から2008年までの27年間、工作機械の生産では世界第1位です。中国やASEANなどの製品の多くは日本の工作機械でつくられているわけです。 以上から明らかなようにアメリカにとっても日本は経済的にもなくてはならぬパートナーです。これからの対米協力の分野は、色々考えられます。
文化
「質問といえば決まっている。いつこの国へおいでになりました。アメリカはお好きですか。ホームシックにおなりじゃありませんか。日本のお茶は大変よう御座いますね。日本のキモノは綺麗ですね。私は日本の事だといえば、もうクレージーですよ。」 この年になりますと文化とか伝統というものは、外国との関係においても本当に重要だなとつくづく思うようになります。一つの路線をつき詰めていくと人間の頭脳は自ずと壁に行きあたるようです。新しい発想が必要になります。フランス画壇が浮世絵にとびついたようなものですね。建築でもファッションでも欧米が行きづまってきますと外国のデザインの取り入れに関心が向く。日本人で建築でも服のデザインでも国際的に活躍されている方の多くは、日本の伝統、日本人の美意識をにじませ,それが評価されています。日本映画、日本料理、マンガ・アニメなどこの十年で目覚しい活躍で米国はじめ世界に受け入れられてきました。ある統計によればアメリカ人の好きな料理は1位イタリア料理,2位アメリカ料理で,3位はフランス料理を抜いて日本料理となったそうです。 日本文化の源である日本語教育の普及について心配する声があります。組織的にもっと力をいれるべきでしょう。同時に人間はビジネスチャンスがあるかある国の文化に関心を持てばその語学を勉強するのではないでしょうか。 一つはJET(The Japan Exchange and Teaching Program)経験者の一層の活用です。JETプログラムで日本に行き英語の先生をして帰ってきた若い人に自分の住む地域の小中学校に行って日本での体験談を話してもらうのです。そこで子供たちに日本に興味をもってもらえたらという発想です。いわば「JET大使」といえるかもしれません。これはもう少しずつ始めています。 もう一つは日本人の英語でのコミュニュケーション能力を高めることにより日本人全体としての国際的な発信能力を高め、世界の流れに遅れないようにすることです。たとえば日本の中学校の若い英語の先生全員が1年から2年間米国留学できたら素晴らしいと思います。いかに英語教育を充実すると言っても先生が自由に話せなければ無理ですから。一人の先生が一クラス生徒30人のクラスを毎年、五つ教えるとして30年間には数千人を教えることになります。これほど投資効果の高いものはないでしょう。これはいわば「逆JET」といえるかもしれません。
総花的に色々なデータを申し上げましたが、私は、日頃、これらを選択的に米国の議員や国民に説明することに力を注いでいます。もっとこんな点を言ったらいいんじゃないかというご意見があればご教示ください。また皆様全員がこれらのデータもご活用になり日本についていろいろ発信して頂ければ幸いです。大使館も総領事館もよろこんでお手伝いさせて頂きます。 私は日本の国際社会での立ち位置というのはけっして他律的なものではない、自ら造っていくものだということをあらためて強調したいと思います。佐藤春夫の詩に「国のさかりに人となり 国おとろえて老となる」という段があります。そのようなことにならないようにしたいと思います。我々が老いるのは当たり前ですが、国はおとろえさせてはなりません。今が日本の運命にとって大事なときです。我々今アメリカにいる者同士、力を合わせてこの難しい時期にあたろうではありませんか。 |

